環境中で劣化したプラスチックがさらに微小化し生物細胞内に到達しているのか?
容器包装等のプラスチックは環境中で劣化,微小化し,マイクロプラスチック(数μm~5 mm)となる。近年,多くの研究者が環境中の10 μmレベルのMPsの分析法の開発を行っている。本研究では環境中のさらに微小なナノプラスチックの分析方法を開発する。劣化プラスチックの粒径が5 μmよりも小さくなった場合,気管,気管支を通り,1.1 μmよりも小さくなると肺胞にまで到達する。もしそのサイズで存在していた場合,発がん性などが懸念される微量化学物質を数百万倍という高濃度で吸着し細胞内に輸送していることになる。さらに20 nmより小さくなると生物細胞膜を透過する可能性が高い。本研究では「環境中で劣化したプラスチックがさらに微小化し,生物細胞内に到達しているのか?」というプラスチック問題の核心に迫る分析方法と試験系を確立する。対象生物は,タナゴ類やイソギンチャクとし,屋外調査,室内実験とともにタイ王国の珊瑚礁もフィールドとする。日常生活を便利にしている物質の環境中での分布と生物影響を解き明かす意欲のある学生を歓迎する。
新規有害物質のマーカーとしての既存水質基準項目の妥当性評価
水道水には様々な化学物質が混入しうるが,我が国の水道水質基準は高々51項目から構成されており,日々新たな毒性情報が提供される中で,すべての有害物質を常時モニタリングすることは,現実的に不可能である。このため,測定しなくても多様な化学物質の濃度が十分に低いことを確認する仕組みが求められている。本研究では,健康影響が懸念される化学物質のうち,塩素処理副生成物を取り上げ,現行の基準項目や処理条件と新規有害物質との関連を調べ,新規有害物質のマーカーとしての現行の基準項目妥当性を評価する。具体的には,文献や国内の水道事業体の蓄積してきたデータを統合し,トリハロメタンやハロ酢酸が他の化学物質の大まかな目安としてどの程度使えるか,仮に新規有害物質のマーカーとして用いる場合の基準値レベルのあり方について議論する。また,必要に応じて実態調査を行う。環境政策やデータサイエンスに興味ある学生を特に歓迎する。
消毒副生成物の化学情報学
塩素処理やオゾン処理は,膜処理等の分離技術とは異なり廃棄物や廃液が発生しない利点がある一方で,異なる化合物(消毒副生成物)が生成する。消毒副生成物の問題は長らく水処理工学・水質化学の中心的課題であり,現在でもそうである。副生成物の生成機構解明の難しさは原水中の溶存有機物の複雑さに起因するが,個別物質と酸化剤の反応に関する知見を積み上げることで全体像を理解可能と考える。本研究では,様々な化合物の副生成物生成ポテンシャルのデータベースを実験的・文献的に構築し,これらに計算化学・データサイエンス的手法を適用し,計算機上である化合物が酸化処理によって対象とした副生成物に変換されるか判定する手順を作成する。また,この際,基本的な反応パターンを精密質量分析により理解し,ルールとして判定手順の中に組み込むことで,精度の向上を図る。データサイエンスや化学反応のメカニズムに興味がある学生を特に歓迎する。
土壌・水系における有機フッ素化合物類に関する挙動予測手法と効率的除去技術の開発
私たちの身の回りには人工的に作り出された有機化合物があふれている。本テーマでは,遺伝子損傷性が疑われているペルフルオロ化合物類(PFASs)の600種類以上の前駆体を対象に,特定排出源であるフッ素化学工場からの排水および排気を通じた環境中への拡散防止技術を開発する。特に,沖縄県の軍事施設からの流出に着目し,北谷浄水場と協力し発生源を追跡するとともに,適切な処理方法の開発を行う。空港周辺,軍事施設周辺,大規模火災現場等から排水されたPFOS,PFOAおよび前駆体の一部は,土壌に蓄積すると予想される。汚染土壌の代表として沖縄県の米軍嘉手納空軍基地周辺土壌等の汚染状況の鉛直分布を明らかにする。環境浄化,土壌浄化に興味がある学生を歓迎する。